平成23年10月の読書記録

10月の読書メーター
読んだ本の数:6冊
読んだページ数:2025ページ
ナイス数:23ナイス

日の名残り (ハヤカワepi文庫)日の名残り (ハヤカワepi文庫)
相変わらずカズオ・イシグロは直接描写をせず、浮かび上がらせる手法が上手い。ミス・ケントンの言動を通して、語り手スティーブンスが彼女に相対しての態度を浮き彫りにする。語り手は明らかな嘘こそ吐かないけれど、自分から言い出したくないことは語らない。非常にリアルな語り方だ。そして背景のように描写されるのは貴族のお屋敷を執事が切り盛りしていた英国の一時代が終わりゆく風景。英国自体の夕暮れだ。語り手の一生と重ね合わせるように一国の一時代を描ききる。上手い作家だと思うことしきり。
読了日:10月07日 著者:カズオ イシグロ
玩具修理者 (角川ホラー文庫)玩具修理者 (角川ホラー文庫)
表題作「玩具修理者」のオチは早々に読み切れた。語り手と聞き手の関係性を男女関係に読ませようとする手管も、明らかなミスディレクションを誘う手つきが透けて見えた。しかし、それはホラーもしくはクトゥルフ・フォロワーとして読んだ場合。後の作品の後書きで、本作もナノ・マシンをテーマとしたハードSFだと言われたときにはぶっ飛んだ。一方「酔歩する男」はタイムトラベルがテーマなので、よりSFに近づいてはいる。でも、頭の中をいじくられる気持ち悪さは本作の方が上かもしれない。
読了日:10月08日 著者:小林 泰三
星を継ぐもの (創元SF文庫)星を継ぐもの (創元SF文庫)
星野宣之のコミカライズをきっかけにして原作版を読み返して見た。スケールの大きさ、テーマの重さ、まさにJ.P.ホーガン節。ただし、デビュー作らしい荒削りな点もまた目立つ。母星が粉々に砕けるような凄まじいエネルギーが加わりホーマン軌道とは思えない様なぶっ飛び方で惑星間空間を移動をする「それ」の上で生命維持が可能なのか、とっても疑問だ。しかし、怒濤の謎解きと感動的なエピローグに押し切られてしまうのだけれど(^^; 星野宣之版では原作にはない展開もみられ、要注目だ。
読了日:10月12日 著者:ジェイムズ・P・ホーガン
なぜあの人からつい「買ってしまう」のかなぜあの人からつい「買ってしまう」のか
実用心理学の実践用参考書。どかどかと52項目に渡るキモが列挙してあるので、サラッと読むだけではあまり意味がない。参照しつつ実行するべき本。
読了日:10月15日 著者:ケビン・ホーガン,ジェームス・スピークマン
ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)
巻末の解説ではジェンダーやSF的視点から論じられている。切り口としては面白いけれど、作者の嗜好を汲むならばちゃんと「スプラッタ版ウルトラマン」だと本質を喝破してあげなくてはならないだろう。おまけに「貧弱ぅ貧弱ぅ」なんてジョジョのパロディも入れてある。相当なオタク小説だ。恒星を組み合わせた壮大な「機械」などハードSFとしての仕掛けも面白いけれど、本編中での扱いは薄い。影の本質が明らかにされない点も若干不満。
読了日:10月20日 著者:小林 泰三
海を見る人 (ハヤカワ文庫 JA)海を見る人 (ハヤカワ文庫 JA)
エマノンに勝るとも劣らず、表紙の勝利。この絵は大好き。数式そのままでは理解できないので、時計の中のレンズも内側と外側も、いちいち図解して絵に描いて考える。さらに全編共通の世界の断章だと考えて、長大な年代記を自分なりに描いてみる。マイクロブラックホールをレンズ型駆動装置の中央に置いた巨大都市型恒星間宇宙船。久遠の時間が過ぎるうちに科学は魔法と化す。粘液と内臓と眼球ぶちまけの小林泰三とは一転して透明感のある美しい話が多い。ことに表題作はそのまま鶴田謙二さんにマンガ化して欲しい。映像化が難しいことは解ってる。
読了日:10月28日 著者:小林 泰三

2011年10月の読書メーターまとめ詳細
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