平成23年12月の読書記録


タカイ×タカイ (講談社ノベルス)タカイ×タカイ (講談社ノベルス)
初期には心理トリックやミスディレクションを多用していた森博嗣だが、徐々に力業の物理トリックばかりになって来た。もとより元・本職の専門領域からすれば、工学・力学的技は得意なのでしょう。そういう側面より、トリックなんて大したことではないというアンチ・ミステリ的な主張が見え隠れしている気もする。Gシリーズがほとんど「自殺」だったことやV最終作の〆方からは。しかし、森作品には正体不明の私立探偵やら手品師がかなり多く出演してくる。そのうちの何人かは同一人物だったり、他の登場人物の別の顔だったりするのでしょうか。
読了日:12月01日 著者:森 博嗣
目薬αで殺菌します (講談社ノベルス)目薬αで殺菌します (講談社ノベルス)
Xシリーズを駆け足で3冊読み終えたところで、本書に戻って来た。Gシリーズでは単発の殺人事件ではなく、組織的犯罪に焦点が移っている。テロであったりメッセージを内包した連続自殺であったり。本書でも殺人事件が発生しているが、これは本当に偶然絡んだだけという筋立て。名は体を表すと言うとおり、本当に捉えどころがない海月くんですが、このまま表舞台から消えるとは思えない。次に舞台に立つときには四季側に立っているのかもしれない。一方の探偵さんも地味に「食えない」キャラとして頑張っている。しかし、いかんせん探偵が多過ぎる。
読了日:12月02日 著者:森 博嗣
カクレカラクリ An Automaton in Long Sleep (MF文庫ダ・ヴィンチ)カクレカラクリ An Automaton in Long Sleep (MF文庫ダ・ヴィンチ)
ドラマを観た記憶はあったけれど、本作を読み進めている最中は「森博嗣キャラクター」で上書きされて、いつもの会話が展開されてしまう。しかし、主演女優の解説(談)を読んでしまったが最後、キャラクターが脳内固定されてしまう恐ろしさ。小説版では、彼女とは結構イメージが違う気がしていたのだけれど、もう駄目だ。恩田陸六番目の小夜子」はもう完全に彼女で脳内再生されてしまう。ともあれ、ドラマが前提だったせいか森博嗣にしては簡単、親切すぎるヒントだった。こんな感じのモリ・ライトももっとあってよいかも。
読了日:12月07日 著者:森 博嗣
忌憶 (角川ホラー文庫)忌憶 (角川ホラー文庫)
「垝憶」を叙述トリックのミステリとして読む。語り手を本人が思っている通りの人物だとすると、登場人物が1人足りない。語り手が実は被害者と入れ替わっていると考えると途中で出てきた人体エピソードが邪魔になる。なかなかやっかいだ。別の短編集に入っていたSF仕立ての話と相同の作品。SF的にはメモリカードの入れ換えで行っていた操作をアナログなノートの書き継ぎで行っている。書き写しという手間がかかる分、リアリティというか身につまされ方は本作の方が上だと感じた。一方、複雑なプロットを組むのにはメモリカードの方が簡単か。
読了日:12月08日 著者:小林 泰三
ぷちます!(2) (電撃コミックス EX)ぷちます!(2) (電撃コミックス EX)
読了日:12月10日 著者:明音,バンダイナムコゲームス
戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)
「改」になる前の版を読んで以来の再読。学習を積み重ねることで自己の外部記憶となる機械知性を育てるという基本プロットは火星シリーズのRABなどに通底する神林長平の得意技。しかしRABが言語による対話を基本とするシステムであるのに対して、雪風は非言語的なやりとりをヒトー機械知性間でやりとりすることで発展していくところが大きく違う。続編に進むにつれ、思弁的側面が大きくなっていくのだけれど、本作では単純に「超音速で戦闘機動する機体がいきなり反転して、背後から迫ってくる敵を迎え撃つ」なんてシーンに痺れるのも良い。
読了日:12月12日 著者:神林 長平
グッドラック―戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫JA)グッドラック―戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫JA)
姿を現さないJAMを鏡面として、機械知性・雪風と機械に近いと揶揄されるけれど人間である深井零の相克を描くのかと思いきや。JAMそのものが機械とも人間とも違う存在として立ち現れて来る展開。知性とコミュニケーションについての動的考察。時空を操るほどの力を持つJAMは、ソラリスの海以上にコミュニケート不能の存在だと思っていたけれど、どうやらそうでもない様子。戦力的には圧倒的に有利なJAMが人間に気付き、理解しようとする動機についても興味津々。その動機が人間に理解できるようなモノかはさておき。
読了日:12月16日 著者:神林 長平
アンブロークンアロー―戦闘妖精・雪風アンブロークンアロー―戦闘妖精・雪風
どんどん哲学的、思弁的になっていく。むしろ初期の活劇色が薄くなり神林長平の本質が透けて見えてきているのかもしれない。リアルな世界は事象の選択により、主体によって違った見え方をする辺り「擬動」出来そうでもある。前半の語り手が入れ替わりながら事態の描写をする下りが、雪風の「力」だったと明かされ、ついに機械知性が「言葉使い師」になってしまった。最後まで描ききって欲しいけれど、一方ではフェアリーにラジェンドラを持ち込んでCDSをぶちかましたい衝動にもかられてしまう。
読了日:12月28日 著者:神林 長平

2011年に読んだ本まとめ
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